バミューダトライアングル、アべンジャー雷撃機の失踪にまつわる伝説の真実
「何がなんだか分からない。白い水の中に突っ込んだみたいだ。完全に迷子になった」
パイロットから通信が入り、ひび割れたノイズが聞こえてきたかと思うと
やがて静かになった。
1945年12月5日のことだ。
フロリダ州フォートローダーデールからいつもの軍事訓練に出発した
5機のアべンジャー雷撃機は忽然と姿を消してしまった。
大規模な調査が行われたにもかかわらず、機体の残骸も搭乗していた14名の
遺体も何1つ発見されなかった。
以来、アベンジャーの失踪は航空機にまつわる世界で最も有名な謎として
語り継がれ、同海域は半ばオカルトのような扱いを受けるようになった。
だが、70年の時を経た今こそ、その真相を解き明かすべきだろう。
5機のアベンジャーが消息を絶ってから数時間のうちに、救援部隊が現場に
向かっている。
このPBMマリナーから午後7時30分に定時連絡が入ったが、同機もまたその
直後レーダーから消失し、屈強な13名の兵士たちとともに姿を消してしまった。
1日に6機が行方不明になるだけでも謎めいているが、この海域では1948年と49年
にも3機の飛行機が消失し、さらに55年には漂流したレジャーヨットが誰もいない
もぬけの殻となって発見されるという事件が起きた。
それから数年後、また新たに2機の米軍機が消息を絶っている。
メディアではコンパスの故障や熱帯の嵐、あるいは気まぐれな海流など、その原因
を巡って様々な憶測が流れた。
だが、とりわけ大衆の想像力を刺激したのが、それぞれの消失地点が
マイアミ、プエルトリコ、バミューダ諸島を結んだ三角に囲まれた海域に
あったことだ。
アベンジャーが離陸したフロリダ州フォートローダーデール空軍基地。
1963年2月
ヴィンセント・ガディスというフリーライターがアーゴシー・マガジン誌に
同一帯には超自然的な力が働いているというセンセーショナルな記事を掲載した。
彼はこの海域をバミューダトライアングルと呼び、過去何世紀もの間大量の消失事件
が起き続けていると書き綴った。
1974年3月10日にバミューダトライアングルで姿を消した船の目撃情報を求めるポスター。
ガディスの記事は推測に基づいて書き立てたもので、具体的な証拠はほとんどなかった。
だが、まさに時機を得ており、”魔の三角海域”の名は広く知れ渡ることになる。
闇の力が働いているという彼の論説は、まさに陰謀論的ファンタジーの
傑作であった。
時は冷戦の真っ只中にあり、キューバミサイル危機の緊張も記憶に新しく
陰謀論は容易に支持を得ることができた。
この時代はNASAに象徴される科学が未解決の謎に答えを与え始めた時期でも
あったが、バミューダトライアングルはそうした合理的な説明を受け付けなかった。
当時、バミューダトライアングルに関して最も読まれた本が
言語学者チャールズ・バーリッツが1974年に出版した『謎のバミューダ海域』で
30ヶ国語に翻訳され2,000万部という売り上げを記録した。
バーリッツの説は、事件の真相は異星人やアトランティスの生き残りである
という荒唐無稽なものだったが、広く人気を博し、スティーブン・スピルバーグは
『未知との遭遇』の中で、異星人に誘拐されるアベンジャーを描いている。
失踪したアベンジャーの同型機
消失の原因究明にあたっては、編隊のリーダー、チャールズ・テイラー中尉
の技量に大きな関心が寄せられた。
彼は2,500時間の飛行経験があり、教官としても非の打ち所のない記録の持ち主だった。
また、訓練生パイロットも300時間の飛行経験があった。
機体の記録にも問題は見当たらない。
燃料は充分に補給されており、飛行前の予備検査も全項目パスしている。
午後2時10分に何事もなく正常に離陸し、そのままバハマ北部のアバコ島に
向かって東進した。
実は無線による通話から午後のフライトの状況を部分的にうかがい知ることが
できる。
午後3時40分、乗組員の1人がコンパス確認を求めている。
「現在位置不明、前の旋回で位置を見失ったようだ」と返答があった。
数分後、テイラー中尉から「どちらのコンパスもダメだ。
フロリダ、フォートローダーデールを探すことにする」と通信が入った。
彼は眼下の島から現在位置を把握しようとしたようだ。
「入り組んだ形の島の上空を飛んでいる。キーズ(フロリダ州の列島)にいるのは
間違い無いないんだが、どこまで来ているのか分からん」と記録がある。
これに対して、無線には異議を唱える声が残されている。
「くそっ、西に飛びさえすれば、帰れるんだ。西へ行きましょう。」
声の主は危機感を募らせているようだ。
フォートローダーデールの管制官もコンタクトを取ろうと必死だったが
その声が届くことはなかった。
やがて、三角法によってアベンジャーの位置を割り出すと、バハマ北部から
数キロ離れていることが判明してた。状況は芳しくなかった。
午後6時20分、「全機編隊を小さく保て」とテイラー中尉が無線で指示している。「着陸できなきゃ不時着水するしかない。1号機が(燃料が)10ガロン(約38リットル)以下になったら、全員で行くぞ」
彼らの最後の瞬間は推測するしかない。大規模な捜索が行われたにもかかわらず、機体は発見されなかったからだ。おそらく海への不時着水を試みたが、重い機体はすぐに荒々しい波によって飲み込まれたのだろう。
”S.S. Marine Sulphur Queen”と印刷された救命胴衣と霧笛を調査する沿岸警備隊。
アメリカ海軍は直ちに救助隊を派遣した。この時捜索にあたったPBMマリナーは
空中で爆発したものと広く考えられている。
海上のSSゲインズ・ミルの艦長が、同機が捜索しているまさにその時間、空中で
火の玉を見たと証言しているからだ。
だが、5機のアベンジャーについては、ヒューマンエラーとコンパスの故障が
悲劇の原因と結論付けられた。
テイラー中尉は、フロリダキーズ上空を飛行していると勘違いし、進路を変更する
ごとに陸からますます遠ざかる結果につながった。
飛行経験豊富な人物であったが、マイアミ勤務が長く、フォートローダーデールの
地理には不案内であったのだ。
魔の三角海域の謎は1つ1つ明らかにされてきた。
無人で発見されたヨットの乗員は異星人に誘拐されたわけではない。
この船は激しいハリケーンにさらされていた。また、2機の米軍機も大西洋で衝突
したことが判明している。
ロイズの保険会社の調査では、同海域の事故が他より多いという証拠は得られて
いない。
また、アメリカ沿岸警備隊は、同海域を通る船や航空機の数を鑑みれば
そうした行方不明事件の件数は無視できるものと認めている。
だが、こうしたありきたりな説明にオカルト好きの人たちが満足するはずもない。
事実、ガディスは捜索隊の説明を受け入れず、同海域の悪名を高めることになった
仕事に着手しているのだ。
Bermuda Triangle (facts) & Flight 19.flv